2004.3.12 (Fri)
▼ チーズバーガー法 [words]
が3月10日に米下院で可決された。
チーズバーガー法というのは、肥満を理由に食品や外食産業を訴えることを禁止する法案のこと。「自分たちが肥満になった責任はマクドナルドにあり」としてニューヨークの肥満児たちが裁判に訴え、これを機に同種の訴訟が相次いで起こされたことを背景に、こうした動きが食品・外食産業全体に広がらないようにするのを狙っている。
そういう理由で裁判を起こす方もアレだけど、さらにこれを法律で禁止する(ように働きかける)というのも何だかおかしな話だと思う。が、コトの本質は対峙する両者のさらに外側に存在しているような気がする。
マクドナルドやスニッカーズやピーカンパイ、それにTボーンステーキやローストターキーの「文化」を支えているのは、「豊かさ」が常により大きく、より多く、より強い、つまり過剰な何かによって表現される(てか、それによってしか表現されない)という形式の問題に由来する。
だから、そこから派生したマクドナルド的肥満の一問題が訴訟によって解決できたところで、それ以外のいろいろなところでは相変わらず「豊かさ」が過剰な何かとして生み出されつづけていて、それを「そうとは知らずに」受け入れさせる仕組みが働いている。
だから、「豊かさ」を過剰なものとして表現する形式そのものを変えないかぎり、いいことだと思って、そうとは知らずに受け入れてきた過剰な何かに対して×印が付くたびに、常に新しい裁判を起こしつづけることになって、しかし実のところ何ら状況は変わっていないことに気が付いていない、という悪循環に陥る。
ニューヨークの肥満児たちが訴えるべき相手はハリウッドの映画産業だったのだ。
2004.3.13 (Sat)
▼ 猫というのは [etc]
本気で寝ると決めたらよっぽどのことがないと起きない。そう一般化できるのかどうか分からないけど、すくなくともキャサリンはそうだということに2〜3週間前に気がついた。
お腹を隠すべく「スフィンクス型」で目を閉じている猫は、プロ野球をつけっぱなしでウタタ寝している父親がチャンネルを替えられた瞬間に目を覚ますように、ちょっとした物音にもすぐさま反応するものだけど、ベッドに体を投げだす格好で寝ているキャサリンは、鍋に温められたアイリッシュ・シチューやオーブンから漂ってくるローストチキンの匂いをものともせず、ただひたすらに寝たままでいる。
これが分かってずいぶん助かった。
キャサリンには一切エサをあげないことにしているので、この事実が判明するまでは、晩ごはんの買出しから戻ったタイミングで門の脇の繁みからキャサリンが飛び出してきて、そのまま部屋まで一緒について来たりなんかすると、彼女がベッドルームに姿を消した頃合をみはからって、なるだけ匂いのしないもの(たとえばリンゴ)をできるだけ音を立てないように食べる、てなことをやっていたのだ。なんだか減量中の力石徹みたいである。
とはいえ、キャサリンが「本気で」寝る体勢に入るには多少の時間がかかるのが問題だった。
で、これは数日前に発見したことだけど、ベッド脇のアロマバーナーでラベンダーを焚くと「本気」体勢への移行が促進されるらしいのだ。ラベンダーにマタタビ効果があるのかどうか知らないけど、とにかくラベンダーが香りだすやいなやキャサリンは爆睡状態に陥り、こちらが近づく物音に夢見ごこちな半目を開くことはあっても、体は相変わらず投げ出したままで動きだす気配はみじんもない。かくして私は隣の部屋で、映画「レイジング・ブル」の役作りにはげむロバート・デニーロのように、サブスタンシャルな晩ごはんを心置きなく食べることができるようになったのだ。
が、これですべての問題が解決したというわけじゃない。
たとえば今この瞬間、私がキーボードを叩いているコンピュータ部屋には、ラベンダー・フレーバーのマドラス・カレーの匂いが漂っている。
2004.3.14 (Sun)
▼ ミャウリンガルの攻略本 [etc]
というのがあることを教えてもらった。
攻略本というよりも、ミャウリンガルをネタにいろんな人が猫話を語ったトーク集といった体裁の本で、「これ先刻ご承知かも」などとメールに書かれていたが、そんなものがあるなんてぜんぜん知らなかった。
あいかわらずキャサリンは鳴かず、鳴いた時にはミャウリンガルが手元になく、ミャウリンガルをオンにして待ち構えている間にタイムアウトしてしまう、という日々を繰り返している。
でも、せっかくミャウリンガルがあるのに、何ら状況に進展が見られないのも悔しいから、とりあえず自分の声が猫語(?)的にはどういう意味になるのかを調べてみることにした。
しかし「お〜い、キャサリン」みたいな言葉をわざわざ翻訳するのもナンだかなあ、なので、「ぐげっ」と「ぐえっ」の中間あたりの弱く、しかし鋭い声を翻訳することに決定。じつはこれ、3週間ほど前に軽度のギックリ腰になった時に発した声である。
寝違えたみたいで朝から腰のあたりが痛いなあと思っていたら、夕方をすぎる頃には痛みがどんどん大きくなって、切らした煙草を買い行こうと外に出たとたん、これは相当ヤバイ状態だと気がついた。
部屋の中と違って外の地面は驚くほどデコボコにできているようで、一歩足を進めるごとに腰からの痛みがズ〜ンッと伝わってくる。フラットを出て、ちょっと大きめの通りまで来たあたりで、このまま引き返したほうがいいような気もしたけれど、横断歩道を渡って、その先のゆるやかな坂を上ればすぐに煙草屋だから、と思って歩きだしたのがいけなかった。
歩きだしてしばらくすると、まっすぐに立っていられないどころか「反省猿」の格好でどこかに捕まってウンウン唸るくらいの強烈な痛みが走った。その瞬間に発したのが「ぐげっ」と「ぐえっ」の中間あたりの弱くて鋭い声である。
「も〜、知らないから」
というのが、その声の猫的意味であるとミャウリンガルは判断した。
そういうわけで、キャサリンがテーブルの上のモノを落としたり、何かをひっくり返したりしたら、彼女に「も〜、知らないから」と言ってやろうと虎視眈々と機会をうかがっているのだが、一度だけベッド脇のガラスのランプシェードを粉砕したことをのぞけば、キャサリンはいたって行儀のいい猫で、何かを倒したり落としたりする気配がぜんぜんない。
「気をつけ」姿勢で嘆願のまなざしを向けてきても、基本的にエサはあげないことにしているので(ってことは、この前の「えびせんべい」みたいなことはこの先ないってことね)、そこのところを何卒ご理解いただきたく。
という意味内容をミャウリンガルで猫語に逆翻訳できたら大助かりなんだけど。
2004.3.15 (Mon)
▼ 午前中に石子センセイと会い [etc]
その足で家賃を払いに行った後でプリペイド携帯電話の料金をトップアップし、午後から家に電話をかけ、夕方には飛行機のチケットを取った。
これだけ盛りだくさんの用事を1日でこなしたのは久しぶりで、2003会計年度のやることリストをすっからかんにしたような気になったが、どうやら明日はもっと忙しくなりそうである。
そうそう、トップアップ→電話の間に髪の毛も切ったのだった。
街から家に帰る時は、ボーダフォン・ショップの脇の細い道を抜け、昔の市場を突っきって大通りに出る、というのが人ごみ嫌いの私の通常ルートだ。
今では肉屋、魚屋、野菜屋にまじってカフェや雑貨店が軒を連ねる昔の市場の一角に、いかにも「床屋さん」といった風情の床屋さん(って言い方もおかしいね)があって、その前を通りしなに、中州産業大学教授チックに伸び放題な髪の毛を切るぞ、と3日前に決意したことを思い出した。
「どれくらい切る?」
と尋ねてくる床屋さんの女性店員に対して、前髪をここらへんまで、と、指で眉毛の上あたりを示した後、久しぶりの早起きにウツラウツラしていたら、こんな声が聞こえてきた。
「うわっ、だいぶ切っちゃったけど大丈夫?」
って、ホントにだいぶ切っちゃっているぞ。大丈夫じゃなかったらヘアコンタクトでも付けるんだろうか、などと思いながらも、ここ2日ばかりの間に寒さもめっきり和らいできたから、これで寒くなって風邪を引く、てな気遣いはないから、それはそれでOKなことにする。
先週の火曜日は午後に突然「ひょう」が降り、木曜日の夜には雪が舞い、金曜は夜半から冷たい雨がジトジト降っていたかと思ったら、土曜日の朝はよく晴れて、ときおり吹いてくる柔らかい風の中から、これまでの刺すような冷たさが姿を消していた。
まあまあOKなアタマで家まで歩いていると、数日前から道路脇に咲きはじめた黄色い水仙の群れがずいぶん成長していることに気がついた。