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だから、人物パターン1)男女が岡田真澄 vs 鰐淵晴子チックにラブロマンス(古いな)するところも、パターン2)男女の「脳味噌まで日に焼けてます」的ナンパ合戦も、それを半分呆れて遠くから眺めて、(たぶん)人生の浮き沈みを感じさせる深いコトバを発しているパターン3)も、みんな同じ声なのである。

とてもとても難しいことだけど、仮にこの男女の声が、三種類の人物パターンのほぼ中間に位置するような性質のものだったら何とか事態を改善する余地がないわけではない。


が、もちろんそんなことあるわけない。


村上春樹の小説「ねじまき鳥クロニクル」の中に、「皮はぎボリス」という冷酷非情に残忍至極な拷問をやるロシア人将校が出てくる。「アカプルコ・アルマ」の男性群を吹き替えているのは、「皮はぎボリス」的に静かで抑揚のない声だ。

女性群もいっしょ。うんと前、モスクワの空港で見かけた、でっかく分厚い眼鏡をかけた入国係官の女性を思わせる声。これも静かで抑揚がない。


そういうわけで、「アカプルコ・アルマ」を見ているこちらの頭の中には、こんな映像+音声が展開することになる。

ショーツ姿の「皮はぎボリス」がサングラスを頭にのせて、やたらとニヤつきながら、しかしフラットな声で、ビーチのナンパを繰り広げる。ビキニ姿のモスクワ空港入国係官が、これもまたモノトーンな声で、しかしやたらと愛想よく、(たぶん)「うっそ〜」系列の言葉を発した挙げ句にヒョイヒョイ付いて行く。

浅黒い顔して小太りのビーチ物売りおじさんがこれを見てる。自白を強要する「皮はぎボリス」声で、(たぶん)「ったく、最近の若者はよ〜」とか何とか言うと、脇に立ってる肝っ玉母ちゃん系物売りおばさんが、パスポートをじっくり検分する入国係官風に、(たぶん)「あんただって若い頃はあんなだったじゃないか」と切り返す。


この日は一日中熱がひかなかった。


May 14, 2000

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