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だから、この言葉のローラーコースターを映画にしたら、いったいどんなことになるんだろうと思って映画を観たところ、原作とは似ても似つかないコテコテのチーズバーガーになってるんで驚いてしまった。製作なかばで予算が枯渇、チーズバーガライゼーションの世界的権威であるミラマックス社の援助をあおぐことになったとはいえ、これはあまりにもヒドイ。
大戦終結を知らせる連合軍の戦車が星条旗を振ってる、という原作のどこにも書かれてないカットが挿入されるくらいはしょうがないとしても、小説のイメージをぶち壊すような長い長いクリスマス・パーティのシークエンスが勝手に付け加えられている。これはルール違反だ。
それに、イギリス人の患者がカナダ人のハナに向かって口にする「君たち北米の人間は本の読み方を知らん。コンマやピリオドは作者が間を置いてるんだから、そういう風に読まないといけない」という台詞が、映画ではインド人のキップに向かって発せられる。事実は率直に受け入れるべきだ。
しかし一番ゆるせないのは、フランス系カナダ人のハナをジュリエット・ビノシュが演じているというのに、小説の最後の最後で彼女がテーブルの上に駆け上がってラ・マルセイエーズを歌うという感動的なシークエンスがすっかり削られていること。
これは私がジュリエット・ビノシュをとてもとても敬愛しているという理由もあるけど、そもそも小説の主題が、近づこうとすれば遠ざかり、遠ざかろうとすれば近づいてしまうような、人と人、国と国、時代と時代の交錯した関係を描くことにあるわけで、だから、「本の読み方を知らない北米の人間」であるフランス系カナダ人のハナがフランス国歌を歌うという場面は、この話の最後になくてはならないはずなのだ。
原作をここまで換骨奪胎して映画を作る国の政府が知的所有権の保護を叫んでいる図というのは、スリに遭って憤っている太った銀行強盗のようにしか見えない。
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