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昨日の晩、雪見だいふくを食べた。

だから何だと言われそうだけど、これ、少なくとも私にとってはけっこうすごいことなのだ。だいたい私は雪見だいふくをことさらに食べたいと思ったことはこれまで一度もないし、ここで雪見だいふくを買おうと思ったらミニ雪見だいふく 9 個入り¥300 パックに約¥760 を支払う覚悟がいる。そもそも私は

の数式を根拠に肉を買ったりするクチなので、私の功利主義的価値観にあっては、雪見だいふくは極北に位置する食べものなのだ。

なのに、雪見だいふくを食べることになったのは、同じマンションに住むいろんな国の人が集まって、それぞれの住むフラットを徘徊するという趣向のパーティがあったので、何か「日本的」なものを出す必要にせまられたからである。もちろん雪見だいふくをして「日本的」というのはかなりハテナな部分がないこともないけど、その日は細々と準備している余裕もなかったし、少なくともこの種の(あんな風なコーティングを施したやつってことね)アイスクリームはここには売ってない。

そういうわけで日本の食材をいっぱい置いている中華スーパーマーケットにおもむき、冷凍の餃子や何だかよく分からない冷凍中華食品のまっただ中に置かれている雪見だいふくに手をのばしたら、赤と白を基調にしたカラフルなパッケージがものすごい懐かしく感じられた。たしかにこの 2 か月間、こんな風な無意味にマンガチックで過剰な装飾から確実に遠ざかっていたのだ。

この地では何かを買うということは、その機能なり効用なりを買うことであって、それ以上でも以下でもない。

たとえばヤカンを買おうと思っていくつか店をまわると、ここで買えるヤカンというものは基本的に 6 種類に限定されていることがたちどころに分かる。火にかけてお湯を沸騰させるタイプのやつはほとんどなくて、ヤカンといえば電気で水を温めるものである。で、そのようなヤカンはプラスティック製またはステンレス製のいずれかである。これで 2 種類。で、プラスティック製、ステンレス製のヤカンはそれぞれに 3 種類のタイプがある。大と中と小。ってことで 6 種類。おしまい。

まあたしかにプラスチック製のやつに白・赤・青くらいのバリエーションはあるけど、それを足したって 10 種類プラスαくらいのものだから、東急ハンズのヤカンコーナーを前にした時の目眩のようなものがとても懐かしく思えてくる。

ヤカンを買うというのは、水を温める機能を買う行為なのだ。

これってヤカンにかぎった話ではなくて、まったく同じ原則が食事にも適用されている。晩飯を食う、ということは、栄養を補給する、という機能なのであって、具体的にいうと肉+パン+じゃがいも(+それ以外の野菜)の摂取である。

で、パン以外の栄養素については、煮る(または焼くまたは炒める)+ブラウンソース(またはソルト&ペパー、またはその両方)で味付ける、ということになっていて、基本的なバリエーションは

という数式によって導かれる。

(ブラウンソースまたはソルト&ペパー、またはその両方を加える度合い)というのは、料理ができあがった後にやるもんだから、それを食事の種類に加えるのはいかがなものか、なんて思ったらそれは大きな間違いである。この種の作業を終えるまでは料理とはいえないのだ。

もちろんこれにデザートが加わったりすることはあるわけだけど、それだってアイスクリームなもの、チョコレートなもの、クリームなもの、フルーツなもの、の基本タイプを組み合わせたものにミニマルな加工を施すだけだから話はいたって簡単である。

てなわけで、ここには雪見だいふく的にマンガチックで過剰な装飾をほどこした「趣向」で勝負する食べ物が存在する余地はどこにもないわけで、そう考えてみれば、雪見だいふくってかなり日本的なものに見えてくる。



(つづく)

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