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たいてい楽屋口というのは劇場の裏手にあるもんだけど、グローブ座の場合、JR新大久保の駅を降りて坂を上ると、楽屋口に通じる階段を通り過ぎてから、正面玄関に行き着くことになる。だから、開演前に正面玄関の外で煙草を吸いながら、坂を上ってくる人を眺めていると、その中に役者が混じっていたりする。

「ロイヤル」・シェークスピア・カンパニーってくらいだから、さぞやロイヤルな風情の役者が揃い踏みかと思いきや、「お、なかなかパンクなお兄さんだこと」と思った人がスッと楽屋口に消えたり、お揃いでコンビニ弁当のビニール袋を下げた三人組の女性が一緒に楽屋口に向かったり(魔女の三人?)、ぼんやり眺めてるとけっこう面白い。

すると、オレンジ系のTシャツ・モスグリーンのショートパンツを着て、元気にキックボードを蹴りながら、坂道を上ってくる奴がいる。なんだか知り合いのイギリス人のような気がして、でも、「どこで会ったんだっけ?」と思っていると、彼も楽屋口に消える組だった。

およ、役者であったか、と、ふと脇に貼られたポスターに目を留めると、彼こそ今日のマクベスを演じる役者なのだった。道理で見たような顔だと思った。

それにしても、Tシャツ&ショーツ+キックボードの出勤姿を目撃してしまうと、これが30分後にマクベスとなって舞台に現れるということがどうしても信じられない。数時間後には「歩く影法師」になろうという人間が、キックボードで元気にやってきちゃいかんよなあ。

なんてことを思ってしまったものだから、いくら目の前のマクベスが「かぼそい蝋燭なんて、さっさと消えてしまえっ!」と頑張ってもぜんぜん効き目がない。「コンビニ弁当でこのパワーが出るわけか、すげえ」とか思ってしまう。やっぱりマクベスを演ずる者は、普段からマクベスを演ずる者らしく振る舞ってもらわないと困る。

けど、JR新大久保駅からグローブ座までの道のりを、普段着のまま、歩く影法師の予感を漂わせて歩く方が、マクベスを演ずることよりも難しかったりするかもしれない。


April 25, 2000

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