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オレンジジュースを買いに出ようとドアを開けると、目の前に月が見える。でも、さっきもらったメールにあった「きれいな月夜」には、90分の間に細くのびた薄い雲がかかってしまったらしい。
マンションの前の細い通りをグラウンドの方に出て、大学病院に向かって歩くと、左手には「調剤薬局」のでっかい看板が3つもならんでいる。どれも去年(だったか?)の薬事法改正に合わせて一斉に開業した薬局で、でっかいのは看板だけではない。この3つの薬局の間には昔ながらの写真屋さんがあって、健康そのものの笑顔で晴れ着を着た子供の写真がいっぱい貼ってある。
駅前の大通りに突きあたると、左手には「公共料金が引き落とせませんでした」通知をこまめに送ってきてくれる銀行。さらにその左隣には今月できたばかりのスターバックス。隣といっても銀行1階のATMコーナーとスターバックスは全面ガラス張りだったりするので、ATMの行列待ちでイライラしながら横を向いたら、何たらフラペチーノとかいう得体の知れない飲み物を手にした呑気なまなざしに正面衝突したりするからイライラ度は高まるばかりである。
この銀行は確保すべき経営の透明性を大きく勘違いしていると思う。
1ブロック歩いたら、一時期、毎日のようにチーズバーガーX2+コーヒーの昼飯を食っていたマクドナルドがある。さらに左に曲がって電車の高架沿いに歩くと、「明るく元気なフロアレディ」がいるプチ飲み屋街が左手にのびている。これを過ぎて東急ストアが見えてくると、すでにして次の駅である。
この2つの駅は理解しがたいほど近接しいる。
なにしろ片側の駅のホームの端っこに立てば、次の駅のホームが見えちゃうのだ。が、2つの駅に役割分担がないこともない。一方の駅には急行や特急が止まる。急行や特急が止まるくらいだから他の路線にもいろいろ連結していたり、地下鉄連絡線の始発駅だったりして便利がいい。でも、もう一方の駅の前には昔ながらの商店街が広がっていて、自分ん家でやってる技術で勝負なクリーニング屋さんがあったり、ひたすら美味くて安い焼き鳥屋さんがあったりするから心が豊かになる。
どちらの駅からもほぼ等距離な場所に住んでいる私は、電車の利便性を重んずるモードの時はでかい方の駅を、アイロンがけの蒸気や焼き鳥の匂いにひたりたいモードの時(たいていこっちの方)には小さい方の駅を使うことになるわけだ。
小さい方の駅前の商店街から1本脇に入った通りには、いつも混んでる昔ながらの(1度も入ったことがない)食堂があり、その先にはいつも夜中まで混んでいる(1度だけ入ったことがある)バー。さらに先にはいつもカラオケが聞こえてくるスナックがあって、そのまた先には脱OLした女性二人がやっているという(1度も入ったことがない)小さなバー。この町にはニュージーランドの羊に匹敵するくらいの飲み屋/焼き鳥屋がある。
というわけでコンビニに到着。
オレンジジュースを買って外に出ると、じつはスターティングポイントのグラウンドは目の前で、その上には8分間の遠回りの間に流れた雲の下から真っ白な月が顔をのぞかせていて、10日ばかりすれば過去形で語ることになる町を明るく照らし出している。
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