言葉と本と映画な毎日
日記
言葉の話
本の話
映画の話
いろいろな話


いったん人混みを抜けてしまえば、渋谷HMV(のできるだけ上のフロア)はなかなか心地よい場所だけど、タワーレコードに比べて試聴できるCDの数が少ない。だから、Amy Correiaの「Carnival Love」というアルバムを見つけたのは、渋谷のタワーレコードだった。

Amy Correiaって人がどんな人なのかぜんぜん知らないし、altavistaで検索してみてもロクな情報が引っかかってこない。となれば、これから先も詳しいことは知らずじまい、ってことになりそな気配だけど、とにかく、すごくいい声をしていて、すごくいい詞・曲を書く。

ルー・リードとか、スザンヌ・ベガといったニューヨーク・フォークの路線で、ストーリー性のある凝った歌詞。一昔前に局所的に大流行した後、一瞬にして消えた「ミニマリズム」と呼ばれるアメリカの短編小説みたいな感じだ。

例えば、「The Bike」。

大叔父(祖父母の兄弟)から譲り受けた「戦車みたいな」シアーズ・ローバック製の1952年型自転車。赤くて、さび付いていて、タイヤは両方ともペチャンコ。でも、きれいにして、空気を入れて、赤信号だろうがお構いなしにビュンビュン走り回れば、あ〜楽し。

Hey and I'm riding around riding around on it
Hey just riding around riding around on it
Hey you know I'm riding around riding around on it. Hey!

みたいにすごくフツーの(そしてノーテンキな)ギターポップ風なメロディの合間に、大叔父さんのパットの話がこんな風に語られる。

海辺に建つ小さな家でパットが亡くなったのは1991年のクリスマスの時期。酔っぱらって車から転げ落ちて、クリスマスの飾り付けの中に顔を埋めた。2日後にパットを発見したのは主人公の父親だった。

彼の葬儀が行われたのはその数日後。結婚もせず、子供もいなかったパットの葬式には、ほとんど出席者もいない。彼の妹は、ペッパーという名のプードルの写真(a picture of a poodle named pepper)をパットの手に置き、そして泣いた。

冷たく澄みわたった空から雪が舞い降りてきた。軍隊でのパットの功労を讃えて国旗が彼の妹に手渡される。

1952年。パットがこの自転車に乗りはじめた頃、彼は人生をスタートしたばっかりだった。自転車はピカピカで、パットは若くてハンサムで、王様の前に置かれた料理のように、彼の人生は彩りにあふれていた(The world was alive with meaning)。

ね、あなどれない歌詞でしょ?

(つづく)

言葉と本と映画な毎日
日記
言葉の話
本の話
映画の話
いろいろな話